塩川雅一の「経営のパラダイムシフト」

 

42.人手不足倒産が主流になる

 

 以前なら、「人手不足」とは会社が繁盛していることを表していた。

しかし、これからの「人手不足」は繁盛していない中で最低限必要な人の配置ができない状態を表す。

日本の経営者は、「人手不足」という言葉から「機会損失」を連想できても、「倒産」を連想できないから要注意である。

ここ数年前までの「人口減少の雇用への影響」は概ね次の通りだった。

人口減少 → 消費者人口の減少 → 需要が減少 → 値段を下げないとモノが売れない → 企業は値段を下げる(デフレになる) → 値段を下げる主な原資は人件費の削減 → 具体的には、給与据え置き、ボーナスカット、正社員をパート化

しかしここにきて、人口減少のもう一つの側面、「生産者人口の減少」が顕著になってきた。

人口減少 → 生産者人口の減少 → 企業の人手不足 → 人件費削減を原資とした値下げはできなくなった(デフレの終焉) → それでも止まらない人手不足 → 対策として待遇アップできる大企業とできない中小企業に2分化

待遇アップできる大企業は、パートの正社員化や正社員のベースアップにより、 人材の確保に走っている。しかし、待遇アップする体力ない中小企業はどうなるか。

人が採れない、人が辞めていく → 仕事が減っていく、仮に仕事があってもやる人がいないので受注できない → 人も減り、仕事も減り縮小バランス → 縮小の限界にきて廃業、倒産 → 人手不足倒産がこれからの中小企業倒産原因の主流へ

では、中小企業が生き残るにはどうすればよいか。

売上減少下の人手不足 → 粗利額の確保に目標をスイッチ → その方法は「生産性アップ」 → とりわけ労働生産性アップ → 中でも生産性が低いホワイトカラー、まずは営業マン一人当たり粗利額アップ → そのためには営業戦略と戦略を実行に落とし込む仕組みが必要

営業戦略としては。

儲かる事業分野への絞り込み、自社の固有技術を活かした儲かる事業分野づくり → オンリーワン化、差別化により事業を高粗利率化 → 高粗利率事業で市場を拡大 → 粗利額を確保 → 生き残り

そして、戦略を実行に落とし込む仕組みとしては、「営業管理」の仕組みを先行業績管理(SGK)システムに刷新する。

 

 

41.新しい企業存続手段の獲得と企業存在目的の見直し

 

 企業の「存在目的」と「存続手段」は当然別物である。企業の本質である「存在目的」を果たし深化させていくため、「存続手段」は環境変化に応じて変えていくものである。

過去100年の「存続手段」は『成長』であった。市場拡大環境下での成長は比較的容易であったし、成長には利益が伴い企業を存続させることができた。

長年そうやっているうちに、「存在目的」は企業経営者の意識から薄れ、「存続手段」である『成長』がどんどん重みを増していった。『成長』を「存在目的」と位置づける企業さえ少なくなかった。

そして今、環境が変わった。市場縮小環境下では『成長』は困難であり、「存続手段」として使えなくなった。企業は新しい存続手段を手に入れなければならない。それが一つ目の課題だ。

そしてもう一つ課題がある。『成長』が使えなくなったことで「存続手段」と同時に「存在目的」までも失うか、ぼやけてしまった企業が多いということだ。

 

「存在目的」を軽視し、成長教に入信していたつけだ。成長できないなら廃業するしかないと考える経営者さえ少なくない。実際、「存在目的の深化」について経営計画書に記載している企業がどれだけあろうか。企業存在目的を見直さねばならない。

 

 

40.日本の人口オーナス期はこれから長く続く

  

人口が減少すれば、需要総額は減少する。日本は人口減少局面に入っているから需要は減少していく。特に、消費の中心である生産年齢人口の減少は、需要の減少に強く影響する。

更に、人口ボーナス・人口オーナスという概念がある。

人口は「生産年齢人口」と「従属人口」に分けることができる。

生産年齢人口は15歳以上64歳以下の人口であり、この世代が生産を支えると同時に消費の中心でもある。

従属人口は15歳未満の「年少人口」と65歳以上の「老年人口」を足した人口である。

この「従属人口」を「生産年齢人口」で割ったものを「従属人口指数」と言い、従属人口指数が低下している局面を「人口ボーナス」と呼び、この局面では生産・消費が活発な人口の構成比が上がっているので一人当たり経済成長を押し上げる追い風効果がある。

逆に、従属人口指数が上昇している局面を「人口オーナス」と呼び、活発に生産・消費する人口の構成比が下がっているので一人当たり経済成長を押し下げる逆風効果がある。

上記をまとめると、

①生産年齢人口が増加すれば需要は増加する。そこに人口ボーナスが加われば需要増加が増幅される。

②生産年齢人口が減少すれば需要も減少する。そこに人口オーナスが加われば需要の減少が増幅される。

日本は人口オーナス期、すなわち需要の減少が増幅される状態にある。

そしていつになれば生産年齢人口が増えるかということだが、仮に2030年に出生率が人口減少を食い止めるのに必要とされる2.1になっても、出生数の減少が止まるのは2090年代ごろとなる。すなわち需要の減少が増幅される人口オーナス期が長く続くということだ。

 

「大局着眼小局着手」。この長期的な経営環境変化に立脚して、今直面する経営課題に対応しなければならない。

 

 

39.北海道は30年後に内需半減

  

生産年齢人口は50年後に半減、というのは全国平均の数字。実際には地域格差があり、中国、四国、北陸、東北地方では40年後には半減しているし、北海道は30年後に半減する。

今から30年後2040年、必要な生活関連サービスを維持するための一定規模の人口(1万人を想定)を維持できず、消滅する可能性が高い市町村数は、地方から大都市圏への人口移動が収束した場合でも243(全体の13.5%)にのぼるが、人口移動が収束しない場合には523(29.1%)と大幅に増える。北海道、青森、山形、和歌山、鳥取、島根、高知の7道県ではこうした市町村の割合が5割を超える。

 

地方部中心に事業展開している企業は、地域密着の「よろず屋化(事業多角化)」で維持するか、都市部に進出するか早めに決断し、選択に応じた対応をライバルに先んじて進める必要がある。 

 

 

38.「人口」と「経済」そして「アベノミクス」

  

日本の人口構造は次のように変遷してきた。

①少子化(195年に初めて合計特殊出生率が人口置き換え水準を下回った)及び人口ボーナスの始まり(1950年~1970年)

②高齢化(1990年代前半に全人口に占める65歳以上の老年人口割合が14%以上)及び人口オーナスの始まり(1992年から)

③生産年齢人口減少(1996年からマイナスに転じた)

④総人口減少(2009年からマイナスに転じた)

この人口構造の変遷と日本経済の変遷はピタリと符合する。

①少子化及び人口ボーナス→「高度成長」

②高齢化及び人口オーナス→「安定成長とバブル崩壊」

③生産年齢人口の減少→「失われた20年」

④総人口の減少→「デフレ経済」

「経済」にとって「人口」は最も密接な与件であるということだ。

アベノミクスで経済状況が変わったという人がいる。しかしアベノミクスは2020年までのカンフル剤と心得るべきであり、内需縮小トレンドは全く変わらない。

  

しかし、アベノミクスが与えてくれた2020年までの踊り場は経営者にとってはありがたい。この時間を活かして、経営の価値観、方針・組織・戦略・仕組みを変え切らなければならない。

 

 

37.日本の人口は制御不能で100年は減り続ける

 

 

 日本の「生産年齢人口」のピークは1995年の8717万人、それが今からおよそ50年後の2061年には4360万人とほぼ半減する。そして70年後には3分の1に、100年後には4分の1となり、今のところ減少が止まる要因がない。

今後100年続くマーケット縮小環境下で「成長」目標を掲げ達成し続けることは不可能であるから不毛である。

企業の目的は成長ではない。国内に成長する事業分野がなくなり、海外に成長する市場がなくなれば、もう事業を継続する意味はないということにはならない。

成長しなくても社会の役に立ち、顧客に喜ばれ、社員の生活を支える企業は生き残るべきだ。

企業が規模的成長を追う時代は終わった。そして今後また成長トレンドが現れる予定はない。「成長」から「成熟」へ転換するタイミングが来ている。

企業の環境ステージは、ザックリと「成長期」→「成熟期」→「衰退期」と変遷していく。企業の成長曲線も「成長期」から中身・質を充実させる「成熟期」を経ていれば、環境ステージが「衰退期」に入っても生き残れる可能性がある。しかし、環境ステージの「成長期」は終わっているのに、いつまでも成長戦略にしがみつき成熟しないまま環境ステージの「衰退期」を迎えてしまった企業は生き残ることはできない。

 

 

36.すべての企業がグローバル化する

  

これからは周辺企業を飲みこみながら成長を続ける企業と飲みこまれる企業で再編が加速する。また、成長するアジア諸国から日本市場に進出する企業が増加することも、競争に拍車がかかる要因だ。

日本の内需市場自体が海外勢も含めた国際競争の戦場になるのだから、海外に展開しても国内に留まっても、すべての企業がおのずとグローバル競争のリングに上がることになる。自分から上がるのか、あがらされるかの違いだが、どちらが有利な戦いができるかは言うまでもない。

地域密着企業として地元企業とドングリの背比べを決め込んでいると、外から進出して来たグローバル企業にあっという間に取って代わられるだろう。

 

中小企業であっても、世界レベル、あるいはアジアレベルで通用する強い企業であれば生き残れる。業界規模別に階級分けがされるからだ。「雑魚は磯辺で遊べ」だ。

 

 

35.プロ経営者だけに収斂される

  

20世紀、100年もの間、市場拡大の経営環境が続いたため、多くの中小企業経営者が21世紀の市場縮小環境に適応できず、「環境に抗った経営」を続けている。

何とか売上を増やそうと抗っているが、市場縮小環境下でのそれは容易ではない。

経営者は、これからまだ成長環境が続くのかどうかを望遠鏡で確認した上で目先の経営に当たらなければならない。

長期的に見たトレンドが成長環境であるなら、今は厳しい環境でも粘り強く成長努力を継続することが大事だ。しかし、長期トレンドで人口が4分の1になるということは、4人いた顧客が1人になるということではないのか。

成長環境は終わっていると判断するなら、直ちに「脱・成長」に舵を取るべきだ。そのまま成長を目指した戦略を取るとますます事態を悪化させることになる。

「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものでもなく、最も頭のいいものでもなく、変化に対応できる生き物だ」米国経営学者L.C.メギンソンのダーウィン進化論の解釈だ。

20世紀は“どの企業がより大きくなるか”の競争だった。内需が1/4に減少する21世紀は“どの企業が生き残るか”の競争である。

経営者は、自己の経営能力を真摯に見つめ、単独で生き残るか、大手の傘下に入るか、廃業するか、あるいは個人企業(生業・家業)に縮小するか、道を選ばねばならない。これまで通りに生き残れる中小企業は2割。5社に1社といったところだろう。倒産だけは避けねばならない。

 

21世紀は、プロ経営者率いる有力企業に収斂する100年だ。

 

 

34.海外進出の精神

  

内需依存度100%ならば、人口減少はダイレクトに減収につながる。人口1%減少は売上1%減少の要因になる。しかし、成長する海外に進出し、その海外事業を黒字化・拡大し、国内利益の減少分を海外からの利益移転で補てんできれば、とあてにする海外進出は賛成できない。

 

 海外展開する主たる目的は「創業の精神、企業文化、固有技術」といった企業DNAを後世に伝え残すことであり、海外からの利益移転で国内本社の赤字を埋めるためではない。国内が赤字で海外が黒字なら、迷わず国内は撤退し海外を発展させるのが経営である。

 

 

33.人口減少(市場縮小)環境はいつまで続くのか

  

日本の超長期的人口縮小はいつまで続くのか、どこで止まるのか。

メタンハイドレート・海洋鉱物資源の商業化はこのきっかけになり得るのではないか。これが人口減少ストップの起爆剤になるという前提で仮説してみた。

2050年 すでに開発及び商業化が完了し、国家予算は潤沢になっている。

その予算により待機児童対策など少子化対策、待機高齢者対策など社会福祉対策が十分に打てている。大学までの教育も無料、住宅資金助成、その他所得税減税などにより、出生率は完全に右肩上がりになる。

2080年 日本の人口は底打ち反転する。

2100年 生産年齢人口も増加局面入り、内需も緩やかな拡大基調となる。

人口は増え続けて良いわけはない。

むしろ、地球環境の視点に立てば人類は減るべきだし、世界の貧困の視点に立てば先進国人口は減るべきだ。

人口が減っていくから需要は減少し、需要が減少していけば企業は淘汰されていく。

したがって、この環境での企業の第一の課題は「生き残り」である。

 

人口が底打ちした後の環境がどのようになっているのか、資本主義社会・企業社会がまだ健在なのかさえ分からない。しかしその時社会に存続していなければ話にならない。

 

 

32.需要半減の環境下で中小企業は何割残れるか

  

これから50年で需要が半減する環境下で、企業数はどの程度減少するとみればよいのだろうか。企業数も半減するか。いや、グローバリゼーションにより外国企業の日本進出もあろうから4割になるのではないか。いや、経営が苦しくなれば大企業が中堅企業の仕事を取り、中堅企業が中小企業の仕事を取りにくる。

そう考えていくと、需要半減環境下で生き残れる中小企業は、特段の存在価値を確立した2割程度ではないかと考えられる。

特段の存在価値を確立できなければ、中小企業は倒産するか廃業するか、あるいは大企業の系列に入るか、子会社になるか、吸収合併されるかだ。

 

一般的な中小企業はゼロになる。そういう前提で、そうならない手を打つ(特段の存在価値を確立する)ことが大事だ。

 

 

31.市場縮小の影響は最弱1社に集中する

  

国内需要は50年で半減する。といっても1年での減少幅は1%くらいだ。それくらいなら頑張れば何とかなると考えるかもしれない。

仮に、市場占有率が5%の中小企業A社があったとしよう。A社の属する市場には中小企業から中堅・大企業まで混在しており、競争力ではA社が一番弱い。

質問:市場が1%縮小した場合、A社の売上はどうなるだろう。1%減収になるのだろうか。

市場が1%縮小すれば、業界内の全企業が1%ずつ減収するということにはならない。強い企業はそんな中でも増収するだろうし、そこそこ強い企業は前年並みを維持するだろう。

そうすると需要が1%縮小したシワ寄せは競争力の弱い企業に集まる。特に一番弱いA社に集中する。1%の市場縮小がA社に集中すると、A社のシェアは5%から1%減り、4%となる。

5%だったシェアが4%になるということは、A社の売上は20%減少するということだ。1年で20%減収することでA社は赤字になるだろう。そして2年で40%の減収になりアウトだろう。

市場が1%縮小するということは売上が1%減るということではないのである。

わが社は一番弱い企業ではないから大丈夫だと思うかもしれない。今はそうかもしれないが、50年の間に最も弱い企業から順番に消えていけば、いつかは自分の企業が一番弱い企業になる時が必ず来るのである。

 

その時までに、市場の縮小がとまっていればセーフだ。生き残れる。しかし、今のところ市場の縮小(人口減少)がストップする要因はない。

 

 

30.海外展開できる国内事業

  

経営環境から見て、今後減収していきそうな事業部門は、環境に抗って増収にしようとせず、効率化により減収黒字にする。そうやって国内では伸びないが効率化により利益が出るようになった事業を海外に展開する。

厳しい国内市場で磨かれ、少ないながらも利益が出るようになった事業は、海外では競争に勝てる増収事業として改めて成長していくだろう。

海外営業展開は、国内での新エリア開拓の延長線上の応用編であり、必要以上に身構えることではない。また、東南アジアへの展開は、日本企業にアドバンテージがある。正直に言ってしまえば、東南アジア諸国のライバル企業は日本企業より相対的に弱い。

 

しかし、忘れてはいけないのは今伸びている海外市場も、これから将来にかけて順次縮小市場化していくということだ。だから、海外展開する日本での既存事業は、生産性が高く磨き上げられた、日本の縮小環境でも黒字を確保できている事業でなければならない。

 

 

29.新規事業を急げ!

 

 本業の衰退に直面して初めて、何か新規事業に取り組まねばと動き出す企業が多い。

しかし、新規事業を見出だし育てることは、経営者オリジナルの通常業務である。

どんな事業にもライフサイクルがある。未来永劫儲かり続ける事業はない。事業立ち上げから、成長期、成熟期を経て衰退期を迎える。

だから経営者は、本業が成熟期に入れば速やかに次の新規事業育成に動きださなくてはいけない。

新規事業への取り組みはどのような経営環境下においても必要な事項だ。しかし、右肩上がりの環境下では、すぐには実らない新規事業に金と時間をかけるより、儲かっている本業に付加価値を加えていけば、手っ取り早く業容拡大していけた。だから多くの経営者が新規事業着手を怠った。その結果、今手詰まりになっている企業が多数出てきている。

今から新規事業に着手するなら、急いで段取り良く進めなければいけない。

既に本業が赤字になってしまっているなら、経営コンサルタントを使って、本業強化と新規開拓をスピードアップするのも一つの手だ。

 

 

28.成長戦略経営の時代に戻ることはない

 

 規模的成長を目標とする経営は、右肩上がりの経営環境下ではマッチしていた。

市場拡大(需要増加)環境では、同業他社より高い伸び率で成長することが経営者の評価につながった。

しかし、国内の経営環境は180度変わり、市場(需要)縮小環境になった。その為、これまで「適応する経営」だった成長戦略中心の経営が「抗う経営」になってしまった。

未だに成長志向から抜けられない経営者は多い。高度成長期の成功体験が骨身に染みてしまっていて変われないのだ。そういう経営者は、まだ成長する(需要が増加する)海外に出るか、国内であっても伸びる市場を創造し、成長経営を継続するのも一つの手だ。

しかし、今は成長している海外市場や、国内の成長市場も、時間の問題で順次縮小市場化していく。先に行けばいくほど成長経営を続けられる市場は減少する。アジアの次はアフリカ、アフリカの次はあるか?

このように、成長戦略経営が経営のスタンダードに戻ることはもうない。成長戦略で成功している企業は例外にすぎない。

 

 

27.「企業目的」を掲げなおせ

 

 「成長戦略」とは、一般的に「規模的成長戦略」のことを指す。

増収を重ねて企業を大きくしようとするこの戦略の狙いは、増収することにより確保できる粗利により黒字経営を維持し、企業存続を果たすこと。すなわち人口増加(市場拡大)環境下で、もっとも容易な、企業を倒産させないための手段であった。

ところが、いつの間にか一部の、いや多くの企業で手段が目的化し、わが社の目標は「年商100億円」などと公然と目標化されるケースも多くなった。

経営者にとって、これはうまい(楽な)話だ。わが社の目標は「年商100億円」と掲げておけば、社員はそれに向かって働いてくれ、本来経営者の責任である「企業存続」を社員がやってくれるのだから。

しかし、これから100年続く市場縮小環境では、「規模的成長」を目標として掲げることはできない。達成できるわけがないからだ。この環境で無理に売り上げを増やそうとすれば利益が減少する。

経営者は「規模的成長」を目標に掲げることで、社員に「企業存続」の責任を転嫁することもできない。経営者が「社員一人当たり生産性」をコントロールし、黒字経営を維持しなければならない。

では、本来企業の目的とは何だったのか。それは「企業理念」であり、そこに掲げられた、「社会貢献・顧客満足・社員の幸せ」、「わが社の事業を通じて誰々のお役に立つ」ということではなかったか。

「増収している」とか「規模が大きい」とかで企業の価値は測れない。「誰々のお役に立つ」という目的を果たしていれば、規模が縮小することがあっても企業価値は下がらない。

経営者は、「誰々のお役に立つ」という『企業目的』を経営の中心に掲げ直さなければならない。

 

 

26.マクドナルドは「抗う経営」の典型事例

 

 マクドナルドは2期連続の減収減益となった。内需型産業で人口減少環境の影響と対応を最も観察しやすい典型がこの日本マクドナルドだ。

日本マクドナルドは海外展開できない。海外には別の現地法人があるからだ。完全なる内需型企業と言える。

新規事業はどうか。日本マクドナルドはマクドナルドホールディングス傘下でハンバーガーを専門に扱う企業なのでそれもできない。

同業他社のシェアを奪うのはどうか。これも容易ではない。第一に現在シェアは70%を越える圧倒的トップシェア企業であり、ライバル社についている顧客は、価格以外の理由で各社にこだわりを持っていてマクドナルドに鞍替えしない固定客と思われるからである。

この状況下で、圧倒的ナンバーワンである日本マクドナルドがどのように成長戦略を組み立て、増収していけるのか。人口が減り続ける経営環境下で「成長戦略」を続けることが可能か不可能かの良い事例になるだろう。

私は、同社は例え本場アメリカ人に経営者が変わっても「成長戦略」では失敗すると考える。マクドナルドの黒字化への処方箋は「成長戦略」ではなく「縮小バランス」である。シェア70%超だけに縮小する余地は大いにある。不採算店を整理していくだけで、減収にはなっても黒字化することはできる。問題は「企業は成長しなければならない」という株主と経営者の古い固定観念だ。

 尚、中小企業は、マクドナルドのように「縮小バランス」を取るのは難しい。経費に占める固定費の割合が高いため縮小すると赤字になってしまう。

中小企業はむしろ、マクドナルドがこれまで打てる手を目いっぱいやり切りシェア70%超になった点を学ぶべきだ。やることをやってきた企業だからこそ、内需が縮小すれば業績も縮小するのは当然だ。むしろ立派である。

ひるがえって、やるべきことは目いっぱいやり切ってきたと言える中小企業はほとんどないのではないか。中小企業は、まず、やるべきことをやり切ることが第1である。

 

 

25.アジア諸国、そしてフィリピン

 

 日本は高度成長期を経て、1億総中流と言われる豊かな国になった。

しかし、アジア諸国の多くは、一人当たりGDPがまだそれほど高くない(国民がまだ充分豊かになっていない)段階で人口ボーナスが終わり、人口オーナス社会に突入していく。

中国・ASEAN・インドなどは、一人当たり所得が日本の半分以下(国によっては約5分の1)の段階で人口オーナスに入っていく。そのため、消費市場としては思ったほど期待できない国も多いと思われる。

一方で、インドネシア・フィリピン・マレーシアでは2050年まで労働力人口が増え続ける。

フィリピンは1965年から人口ボーナス期に入ったが、他のASEAN諸国に比べ成長率が低く、かつてはASEANの「劣等生」と言われた。折角、生産年齢人口の割合が増えたのに、その人口を生かす雇用を生み出せなかったことが原因である。

人口ボーナス期がASEANで最も長く続くフィリピンだが、この人口ボーナスを活かせるかどうかは雇用を生み出せるかどうかの政策運営にかかっている。海外の輸出型メーカーを誘致して雇用を増やすことがフィリピン政府の課題である。その為、海外からの進出企業への優遇措置はこれからも続くことが期待できるし、給料が上がりにくい環境も続く。

 

 

24.人口減少の先にご馳走がある

 

 多くの識者が危惧するように人口減少によるデメリットは確かにある。

しかし半面、日本には技術・知識の蓄積という資産がある、外国への債権がある、将来有望な地下資源がある。これらは人口の増減にかかわらず固定的に入ってくる収入である。

現在それらの固定収入を実感している人はほとんどないであろうが、仮に、100年後日本の人口が3分の1になった時にはどうであろう。国民一人当たりの分け前が3倍にもなる。大変な御馳走なのではないだろうか。

これからの急激な人口減少プロセスは企業存続にとっては極めて厳しい局面である。しかし、その先には国民一人一人にとってはご馳走が待っている。

 われわれ先進国の国民は発展途上国の犠牲を前提として豊かな生活を享受してきた。今、多くの発展途上国の中進国化により、犠牲になる国が減っているのだから、われわれ先進国は生活水準を落とすか、落とさないなら人数(人口)を減らすしかなく、実際、人口減少を受け入れるしかない。

 

 

23.企業を経営環境に適応させる人

 

 「経営は環境適応業」。ならば「経営者」は、企業を経営環境変化に適応させる人と言える。

では、今日の最大の経営環境変化は何か?

20世紀から21世紀にかけての経営環境変化の中で最大のインパクトは「人口」(市場規模)変動である。

20世紀は人口が4倍に爆発し、21世紀には人口が3分の1(生産年齢人口は4分の1)に激減する。 

これらの環境に適応した経営とはなんだろう。

人口増加によりマーケットが拡大していた環境では、企業は経営の価値判断基準を「業容拡大」に置き、規模的成長戦略を展開してきた。それが20世紀の「環境適応経営」であった。

しかし、21世紀は人口減少に転じた。環境が間逆に転じたため、20世紀なら環境に適応していた経営も21世紀では環境に「抗う経営」になるのである。

21世紀は、20世紀のままの拡大志向の経営では抗い切れず、遅かれ早かれ息切れし、破綻する。

例えば、市場拡大の環境下では、企業は規模的成長に伴って新卒社員を増員していくので、社員の年齢構成は常に若年層が中心となる。労働コストが割安な中で売上が増えていくので利益は増加していく。そうして企業は発展・存続していけた。

成長あっての存続であり、存続するためには成長が必要だったのだ。

逆に、市場縮小の環境下では、企業の規模的成長は止まり、新卒社員を増員しなくなるので、労働コストの高いベテラン社員比率が高くなり、利益は減少していく。

そして21世紀、高い労働コストでも利益を出すには、生産性を高めることが必要だ。「労働集約型」から「知識技術集約型」「高付加価値型」へ転換できるよう事業内容を再編・集約していく必要があろう。

高技術・高知識で高い専門能力をもった社員が、高付加価値の商品・サービスを提供する。そのためには経営者が「規模的成長」発想をハッキリ捨て、「質的成長」に発想を変えることが第一ボタンである。

高技術・高知識の社員を採用し、育て、辞めさせない人事労務施策も必要だ。

一般社員をできるだけ速く、専門家(スペシャリスト)及び管理者(マネジャー)を育て上げるための施策。社員のモチベーションを高め潜在能力を引き出す施策も準備する必要がある。

 

 

22.「海外展開での成長戦略」は貴重な時間稼ぎ

 

日本国内の経営環境は、人口増加(市場拡大)から人口減少(市場縮小)へと変化した。これに伴い、経営の価値判断基準も変えなければならない。

しかし、これは日本国内市場での話だ。市場をアジアの一部地域、例えばインドやフィリピンと考えた場合、今後約30年はマーケットが拡大し続ける。

アジア全域で所得が一定水準以上の中間層は合計約5億人だが、2020年までに、現在の3.5倍の175億人になると見込まれている。

しかし、国内では成長できないので、活動の場を海外に移して成長を続けるという発想ではダメだ。これでは単なる延命になってしまう。

なぜなら、今伸びている海外市場も、順次日本と同様のマーケット縮小に転じてくるからである。

海外市場進出の目的は、あくまでも時間稼ぎであると考え、この貴重な時間に国内の縮小環境に適応できるビジネスモデルを確立しなければならない。

このビジネスモデルが確立できれば、順次日本と同様に縮小化していく海外市場にも適用できる。

 

 

21.企業は儲かってもベースアップしない

 

 企業は儲かれば賃金を上げるだろうとは甘い考えだ。儲かっていることは賃金を上げるための条件の一つにすぎない。

企業が賃上げ(ベースアップ)をする理由は「人材の確保」だ。既存の人材を流出させないためと新規の優秀な人材を採るためである。

円安株高で輸出型大企業は儲かっている。大企業が儲かれば次に中小企業も儲かってくるというのも甘い考えだ。たしかにこれ以上中小企業に値下げ要求する大義はなくなるかもしれないが、値上げさせてくれるとは到底考えられない。

『円安株高にすれば企業が儲かり、儲かった企業は賃上げをし、給料が増えたサラリーマンは消費を増やし、消費が増えればデフレから脱却できる』という政治家と学者が描いたストーリーは経営者ならすぐ間違いだと気付くはずだ。

それでも、何かの間違えでもいいのでアベノミクスがうまくいって2020年の東京オリンピックまで景気の踊り場ができれば、企業にとっては「経営のパラダイムシフト」を行う時間稼ぎができて非常にありがたい。

 

 

20.「株式会社」で良いのかさえ疑え

 

 「会社(企業)」という形態が、今後も社会の中で中心的に存続するのか。

社員の側からみると、若い社員は管理職になりたがらない。人に命令するのもされるのもいや。会社が大きくなること自体、嬉しいと感じない。売上目標を達成したときに嬉しく感じるのは、目標額を売りあげたからではなく、目標額を売りあげた自分の成長を誇りに感じるからだ。

これからの社員は、賃金は高額よりも安定。「自律性の向上」「自身の熟練」「組織目的との一体感」に動機づけされる。もう「金」と「地位」では動機づけできない。

経営側からみても、現在民間企業が取り組んでいる「儲かっている事業」も、これからの人口減少社会では多くが「儲からない事業」化してくるだろう。儲からなくなった事業分野からは経営者も手を引いていく。その結果、それでも社会に必要な事業については、半国有化するか、NPO化していくだろう。

NPOは増え、企業は減少する環境だ。

別途NPO法人を設立し、社会貢献色の強い事業を移管してみてはどうか。或いは社会貢献につながる新規事業をNPOでやってみてはどうか。

これまで社会貢献的事業は儲からないといわれてきたが、今は儲かる事例が増えてきている。

 

 

19.「社会性」は脱・成長後のキーワード

 

 消費それ自体が「目的」であった時代は終わりつつあり、消費は「手段」となる。

人とつながる、社会とつながることが新しい「目的」となり、物やサービスの消費はその「手段」となる。

だから、物やサービスについては基本的な必要機能を満たしていれば「ブランド」はいらない。必要以上のめったに使わない付加機能もいらない。そこに価値を感じない。

顧客は人間的なつながりには価値を感じる。自社の商品・サービスがどのような形で人間的つながりを創出・演出できるか、そこがポイントである。

物を売って「儲ける事業」から、物やサービスを通じて「人と社会をつなげる事業」への転換が超高齢社会でますます重要度を増すであろう。

 

 

 18.デフレは無理に脱却しなくても自然と終息する

 

 今すぐ「デフレ」から脱却しようとすれば、多額の費用を投じなければならない。それでもデフレから脱却できる保証はなく、それに費やした金は確実に将来のつけとなる。

しかし、今すぐでなくてもよいなら、一切の費用をかけずに、このまま放っておいても自然とデフレは終息する。

デフレの要因は「海外要因」と「国内要因」の両面がある。

1点目は「海外要因」。途上国からの“デフレの輸出”で安い商品が日本に入ってくることだ。これは世界的な自由貿易化の流れの中で自然なことであり、止めることはできない。

しかし、安い商品を供給する途上国とこれを輸入する先進国の賃金等のコスト格差は、振り子の原理が働き徐々に近づきつつある。これから10年もたてばこの「海外要因」によるデフレへの影響は小さなものになっているだろう。

2点目は「国内要因」。国内の人口減少により、需要が減少しているにもかかわらず、企業が「売上アップ」の御旗を降ろすことができず、供給を減らさないことがデフレの要因になっている点。

この対策は、需要を増やすか供給を減らすかであり、需要を増やす抜本策は出生率を上げ人口を増やすことだが、それには今すぐ手を打っても50年以上かかる。

しかし、価格はどこまでも下がるわけではない。企業は赤字を出してまでの値引き・値下げは一時的・部分的にしかできない。

結果的には、損益分岐点操業度の高い企業から順に、市場から撤退していくことになり、それにより需給バランスがとれた所で価格の下落は自然と止まる。

そう考えていくと、2つの主たるデフレの要因は、特に3本の矢を射なくても10年後くらいには自然消滅するだろう。

 

 

17.市場縮小サイクルが正常に回りだした

 

 ワタミそしてすき家でもパートが確保できず店舗数が減ることになった。複数の航空会社でも機長を確保できず減便とのこと。

生産年齢人口がピークとなった1995年までは、「需要」も「供給」も増加してきた。そして、「失われた20年」と言われたここ20年は「供給」は変わらないまま「需要」は減少した。そのためデフレが発生した。

しかしここにきて、「需要」も「供給」も減少する段階に入った。市場縮小のサイクルが正常に回りだしたのだ。

人口減少により「需要」が減少するが、同様に人口減少により「供給」も減少するので一人当たりの富は変わらない。給料は減らないし、デフレにもならない。

ただ、供給減少に伴い企業数は減少する。先にあげた外食や航空会社の事例が示唆する通りだ。

企業は「生き残りの時代」に入ったことを意味する。この時代が今世紀中続いても不思議はない。

スーパー業界ではイオンとイトーヨーカドーの寡占状態になってきた。ほとんどの中小のスーパーもいずれかの系列に編成されつつある。しかし、一部の地域住民に愛 される小規模スーパーは元気だ。

これが各業界の行きつく姿である。

どの業界でも2~3社の大手が寡占する。そして独自の存在価値が確立されたオンリーワン企業もまた生き残る。

この人口減少時代が終わるころには、日本の企業数はピーク時の4割程度になっていると言われている。

中小企業が生き残るには、一部のユーザー層にとって「あなたが一番」「あなたでなければ」「あなた以外に考えられない」と言われる企業価値を確立することが急務だ。

 

 

16.中小企業は「縮小バランス」を使えない

 

 国内需要は縮小する。それは避けられない。しかしそれが直ちに問題であるとは言えない。

需要が縮小しても供給も減れば「縮小バランス」できるからだ。

供給は減少するのか。需要減少の原因は消費年齢人口減少であり、消費年齢人口=生産年齢人口でもあるから、生産年齢人口の減少により供給も減少する。

国内マーケット全体としては、「縮小バランス」により、良くも悪くもならない。

しかし個々の中小企業ベースでみれば、そうはならない。中小企業はこれ以上縮小できる余地がなく、縮小バランスできないからだ。

縮小バランスできない中小企業は、内需が半減する環境下でも現在の粗利規模を維持し続けなければならない。

 

その為には、これまでの経営路線である「成長戦略(増収目標)」を捨て「現状粗利維持」を数値目標とし、一人当たり生産性を上げ、前年より少ない人数で前年並みの粗利額を稼ぐ戦略に転換する必要がる。

 

 

15.需給ギャップが解消しても再び「成長」には向かわない

 

 15歳以上65歳未満までの人口を働き手と見なし「生産年齢人口」という。“消費者”というとお金を使う人すべてを指すが、そのお金を稼いできているのはやはり15歳以上65歳未満の働き手なので、「生産年齢人口」は「消費年齢人口」でもある。

失われた20年では、「消費年齢人口」の減少により需要は減少してきたにもかかわらず、失業者の就職や安価な外国製品の輸入などにより供給は減らなかったため、デフレが進んできた。

しかし、ここにきて労働力の需給ギャップは解消され、また輸入商品の価格も底打ちしてきたため、デフレは終息に向かう。

デフレが終息すれば企業の粗利率が低下していくことはなくなる。しかし、需要の減少は「消費年齢人口」の減少により今後も続いていくので企業の売上は低下し続け、伴って企業の粗利額も低下していく。それが総論である。

しかし、各論でみると、すべての企業が一律に粗利を減少させていくということはない。企業努力などにより売上を維持、または増加させる企業さえあるはずである。

市場全体の粗利総額が減少していく中で、粗利を維持・増加させる企業があるということは、逆に急激に粗利を減少させ、市場から退場せざるを得なくなる企業がこれまで以上に、そして継続して出てこざるを得ないということである。

 

 

14.現在の経営者の責任

 

今後、自社をどの方向に導いていくかの「事業戦略」。その構築は、企業の中で経営者のみが負える責任である。

日本の人口が減少に入ったことは知っていた。「粗利率を下げなければ売上が上がらない」「無理に売ろうとすると粗利率が下がる」と感じていた。それでもなんとか黒字にしようと、あの手この手を打ってきた。

しかし今、「人口の超長期推移」のグラフを見て、自分がこの20年、何を相手に戦ってきたのかがハッキリ目視できた。相手は「100年続く日本市場縮小」だった。

この相手には抗うより味方にすることが得策だ。

「味方にする」とは、この環境に適応するため、経営価値観をパラダイムシフトすることである。

規模的成長戦略と決別する覚悟はできたとして、問題はその後、何に向かうかだ。どこに向かうかが決まれば、そのために何をどう変えるか、新しく何を始めるか。新しい自社の「価値観の設計図」をどう描くのかだ。

これらを構築しなければ、「規模的成長」という間違った方向に進むことは止められても、新しい目的地に到達できず漂流してしまう。

これからの経営で重要性が増すことは、次のような点であろう。

①損益分岐点操業度をコントロールし、黒字基調を維持できるようにすること。

②企業理念を経営目的として取り戻すこと。

③「従業員一人当たり生産性」を向上していくこと。

 そして何より忘れてはならないのは、この環境を『生き切る』ことである。

 

パラダイムシフトした経営方針は、社員や関係先から、すぐには理解してもらえないかもしれない。

しかし経営者は、強い確信と執念をもってパラダイムシフトを断行をすることが大事だ。

  

これからの100年、自社が需要縮小の環境を生き抜き、企業遺伝子を次世代に遺こす布石を打つ。それが現在の経営者に任された、後の世代の経営者への責任である。

 

 

13.経営はそろばん勘定と人づかい

 

タナベ経営創業者・田辺昇一は「経営はそろばん勘定と人使い」と言った。

これは、前世紀も今世紀も変わらない経営の原理であるが、その中身は違ったものになるだろう。

前世紀は、端的に言えば、人使いは「アメとムチ」、そろばん勘定は「増収」だった。

今世紀は、単純労働者を対象としていた「アメとムチ」は通用しない。社員の動機づけ(人使い)に新しい基軸が必要である。

①会社とビジョン・経営目的を共有できている

②自分自身の成長(熟達)が実感できる

③適度なセルフマネジメントがあり自律感がある

  

「増収」は、それを継続していくことは困難な環境である。経営者は各企業における「減収しても黒字」にするそろばん勘定ノウハウを確立せねばならない。

 

 

12.企業は環境適応業

 

 タナベ経営創業者・田辺昇一が、経営講演会で必ずと言っていいほど口にしていた経営格言、それは「企業は環境適応業」だ。

これからは規模的成長を目指す環境ではない。

グローバル企業(特定の国に依存しない企業)になるというなら別だ、日本からアジア、アジアからアフリカへと主戦場を移していけば、今世紀中くらいは成長戦略を組み続けられるかもしれない。

しかし、日本の国内需要で喰っている企業はもとより、海外に進出している企業でも、日本に軸足を置いて事業をしていく限り「成長戦略」はもう環境適応しない。

「戦略」とは、会社が所有する経営資源(人・モノ・金・時間)をどこに重点的・集中的・合理的につぎ込むかの方向を決めることだが、「規模的成長」に限られた経営資源をつぎ込んでも、100年続く市場縮小環境下では息切れするのが目に見えている。川を下流から上流に向かってクロールで泳ぎ続けるようなものだ。

それならむしろ「成熟戦略」で企業の「安定」と「充実」を深化させる方がシックリくるのではないか。

「安定黒字体質」と「充実した事業内容・会社風土」を目的として、その方法論を「戦略」として構築すべきではないか。

 

 

11.やめる、改める、新しく始める

 

縮小市場における経営では、減収になることも想定した経営をすべきだ。

縮小する内需に依存した事業で、無理に売上目標を達成しようとすれば、値引き販売などにより減益となり、企業体質を弱める。

しかし企業は、「やめる、改める、新しく始める」によって、縮小環境下でも、よりよき方向に前進することができる。

①やめる

「規模的成長指向」「増収増益への固執」「成長戦略」はやめ、「質的成長指向」「生産性向上重視」「成熟戦略」に切り替える。

②改める

「営業部門のマネジメント」「社員の動機づけ策」を改め、自社が持っている潜在能力を引き出し、本来持っている全力を活かしきる。

③新しく始める

「伸びる内需市場の創造・参入」「海外営業展開へのチャレンジ」を新しく始める。 

 

 

10.「当たり前」だった目標設定が仇になる

 

売上目標があること自体が問題だとは言わない。しかし、日本の人口は今後100年かけて1/3の4200万人に急減していくのだ。

そのような環境に変わったのに、これまでの「習慣」の延長線上で、売上目標は前年比○%アップとか、○億円アップなどとやっていることが問題である。

①この環境で目標を「売上」のままにしていると、未達になる頻度が上がり、社内のモチベーションは沈滞する。

無理に売上目標を達成しようとすれば粗利率を下げて売ることになる。

その状況が続くと、増収は継続できたとしても、損益分岐点操業度は年々悪化する。

そして、もうこれ以上粗利率を下げられないとなれば、減収するしかなくなる。

損益分岐点操業度は高くなっているので、たちまち赤字に転落する。

供給過剰の環境下では販売単価を上げることもままならない。

かくして、「赤字体質」企業となってしまう。

全社員が最も強く意識する目標を「規模的成長目標(例えば増収目標)」のままやっていると、本来設定すべき「今後100年続く環境に適応した目標」が掲げられない。そのため全社員が共有すべき価値判断基準も切り替わらない。社員は正しい方向に進むことができない。それが大きな問題なのである。

「増収目標」は早く卒業し、より社員一人当たりの生産性が高い企業を目指す。

  

そして経営者は、損益分岐点操業度をコントロールする。

 

 

9.「企業存続」の方法が変わる

 

 日本の需要が右肩上がりの環境下では、経営者は「増収」さえ継続していけば、同業ライバルと伸び率の差こそあれ、皆がそれ相応に利益を出し「企業存続」を図ることができた。

しかし、需要減少が100年以上続く環境下では、「企業存続」に「増収手法」を使えない。経営者は、売上が減少しても黒字が続けられる経営手法に転換しなければならない。

50年で「生産年齢人口」が半分になる今の環境においは、ほとんどの中小企業は生き残れないだろう。従って企業の最優先課題は「成長率」ではなく「生き残り」である。

この環境下で企業存続を図るために、損益分岐点操業度を下げ、腰を低くしなければならない。その方法は、国内既存事業の生産性向上である。付加価値の高い海外展開、国内新規事業も分岐点を下げるのに寄与する。

 

 

8.50年後の内需は今の半分 

 

 増収・増益を目標とする経営からは、一刻も早く脱却しなければならない。

なぜなら、日本の総人口の減少が始まったのは2005年からであるが、1564歳までの生産年齢人口(≒消費年齢人口)は、既に1995年をピークに減少に転じている。

転換点を過ぎて、もう20年近くも経過しているのだ。

経営の価値観を変えるべきターニングポイントから20年も経過しているのに、旧来の価値観のままでも何とか経営していけているのは、人口(需要)の減少幅が今はまだ小さいからだ。

人口減少ペースは、今はまだ年0.3%(40万人)程度であるが、年を追うごとに加速し、今から30年後には年1%のトップスピードに突入していく。わずか1%と思うかもしれないが1%は100万人である。100万人と言えば、香川県、和歌山県の人口に匹敵する。毎年1県ずつ日本から消えていくイメージなのである。

とりわけ、消費(需要)とより密接な関係にある「生産年齢人口」については、1995年の8717万人が2060年には4418万人と半分になる。

50年先の将来の話をしているのではない。今すでに、内需が半分になる50年後に向かって坂を下っているのだということをしっかり意識して経営の舵を切らねばならない。

 

 

7.「失われた20年」の正体

 

「失われた20年」とよく言われる。なぜ「失われた」と言われるのか。

この20年、「成長」しようと一所懸命努力していたのに「成長」できず、停滞してしまったから「失われた」と表現される。

しかし、問題の真因は成長できなかったことではなく、「成長」を目指すべきでない環境下で「成長」を目指してしまったことではないか。

日本は、およそ20年前に生産年齢人口が減少局面に入った。その時点で企業の中心的価値観を「成長」に置くべき時代は終わっていたのだ。

この20年、株式会社はパッとしなかったが、NPO法人は、NPO法が施行された1998年から一貫して右肩上がりで増え続け、現在40,000法人を突破して増加中だ。

企業は存続するために儲けることを第一に考える。NPOは社会的使命を第一に考える。社会ニーズが変わってきているのである。

 

これからは、企業の高い組織存続能力を持って、NPOのように社会貢献を事業目的として取り組む。そんな会社を目指すべきではないか。「企業理念中心の経営」だ。

 

 

6.経営者世代が足を引っ張っている?

 

日本の高度成長期が終わる1970年代初頭までに、5年以上社会人経験をした人々は、現在65歳以上である。この層の人々には「企業は成長しなければならない」という考え方が埋め込まれている。しかし、この層の人々はすでに定年退職しており、まだ現役として企業に残っているのは経営者及び役員である。

対して、高度成長期を5年以下、またはまったく経験していない人々は「企業は成長しなければならない」という考え方に染まっていない。

要は、現在企業で働いている従業員は「企業は成長を続けなければならない」という固定観念に縛られていない、縮小環境にも対応できるビジネスマンなのだ。

 

しかるに、環境変化に適応しダイナミックな方向転換をリードすべき経営者及び役員が「企業成長」という古い価値観を捨てられず、企業はなかなか環境に「抗う経営」から脱却できない。

 

 

5.「経営環境は厳しい」と思う錯覚

  

新聞を読んでいると「厳しい経営環境」とか「逆風下」といった表現が躍っているが、本当にそうだろうか。

私は京都生まれだが、関西人は「川」はだいたい北から南に向かって流れているものと、誰に教わったわけでもなくそう理解している。

ところが、出張で日本海側の都市に異動の際、列車の車窓から見える川の流れは、当初は北から南に向かって流れていたのに、いつの間にか南から北に向かって逆方向に流れていて、一瞬頭が混乱することがある。

日本海側では「川」は南から北に向かって流れるのが普通であって、太平洋側から日本海側に異動すると「分水嶺」を越えたところから川の流れが逆になるのである。

昨今、「経営環境は厳しい」とか「逆風下」というのは、経営環境が変わったのに、頭と意識が切り替えられておらず、一瞬頭が混乱している状態なのだ。

環境が変わったのに従来どおりの経営でやっているから「経営環境は厳しい」と感じ、風向きが逆風に変わったのに、まわれ右しないから正面から風を受ける。

ドラスティックに変貌した経営環境に適応するため、自社の価値判断基準をドラスティックに変えたか、経営者は自問自答してほしい。

以前のままの価値判断基準では、もがけばもがくほど傷口を拡げかねない。

普通、ビジネスマンは「減収」という言葉を悪いイメージで捉えている。

  

しかしこれからは、「減収」は良い事とも悪い事とも言えない。なぜなら、新しい経営環境下では「売上」の増減は経営の良し悪しを計る尺度ではないからだ。

 

 

4.旨い物は小人数

 

「大きいことはいいことだ!森永エールチョコレート」は1967年のCMだ。しかし、未だに多くの経営者が45年前の高度成長期の「大きいことはいいことだ」発想を変えられないままでいる。

「ご馳走は少人数で食べろ」。おいしいものは少ない人数で食べる方が、たくさん食べられて良いという意味だ。儲け話は少ない人数でする方が、利益の分け前が大きくて良い、という意味でもある。

 

経営を測る尺度は、「規模的拡大指向」から「社員一人当たり生産性指向」へ重心を移す。「人は少なく、仕事は多く、給料は高く」。

 

 

3.「株価暴落」に学ぶ

 

  「人口の超長期推移のグラフ」。私は以前、これと同じようなグラフを見た経験がある。

 それは私が証券会社に勤務していたころ、1989年ごろの日経平均株価のグラフだ。

 当時バブル崩壊、株価大暴落を目の当たりにした顧客(一般投資家)の反応は大きく3つに分かれた。

 第一は、当時の「上がるから買う、買うから上がる」「株はまだまだ上がり続ける」という株価神話が頭にこびりついていて売り損ね、資産を大きく減らしてしまった人。

 第二は、これは尋常でないと直感し、損切りして売り逃げ、大きな損失は避けた人。

 第三は、株価が下がると儲かる「信用取引」に切り替え、下げ相場の中で儲けた人。

 第一の人8割、第二の人2割、第三の人はほんの少しだけだった。

 

 株価大暴落時の教訓を経営に活かすならば次の通りだ。

①経営者は頭にこびりついている右肩上がり時代の経営の常識を早く捨て、新しい常識を理解する。

②自分の経営感覚では手に負えないと冷静に判断したなら、早いうちに良い状況で 会社を渡す準備をするのも一つの選択である。

③国内需要が100年減少し続けても、黒字を確保し、経営目的の実現に近づいていける。そのような経営目的・事業ドメイン・経営戦略を組み立てる。

    

 「企業成長神話」を前提とした経営価値観を引きずる企業にとってはこれからの100年、アウェイでの戦いが続く。しかし、新しい経営の価値観にパラダイムシフトした企業にとっては、また前向きに進んで行ける100年にできる。

 

 

2.人口減少とデフレの関係

 

日本の人口は140年続いた急激な増加局面から、100年続く急激な減少局面に転換した。

これにより日本の国内需要は今後100年の長期に渡り、継続的に減少し続ける。

したがって、企業の売上高も全体としては減少し続ける。

本来、人口の減少は、消費者(顧客)が減るという意味では需要(売上)減少につながるが、同時に生産者(社員)も減ることにより供給(費用)も減少するので、需給バランスは崩れない。

しかし、人口減少局面では社会が悲観的になり、需要(消費)が先行して減少し、供給(生産)はこれに遅れて減少する。そのため、常に需要不足の状態となり、商品・サービスの価格は低下傾向(デフレ)になる。

この傾向に際限なく続くのか。パソコン市場ではデフレは止まっている。価格低下で利益が取れない上に、タブレットに需要が移り数も売れなくなったため、メーカー・小売ともにこれ以上価格を下げて売るほどの魅力がなくなったからだ。

 

デフレになるきっかけは人口減少だが、人口が減少する限りデフレが続くというわけではない。 

 

 

環境に「抗う経営」から「適応する経営」へ

 

    

  市場縮小の中で「成長」に固執し、消費者が減る環境下で、「量」「数」を売ろうとする経営を「抗う経営」と名付ける。

1995年をピークに生産年齢人口は減少局面に入った。経営環境の潮目が変わったのだ。

「成長」の呪縛から頭を切り替え、経営の価値判断基準を変えないといけない。

「成長」を捨てることは衰退することではない。経営を「環境適応」させることだ。

高度成長期の経営の価値観を捨て、新しく「安定」「充実」「成熟」「熟達」といったキーワードで自社の経営の価値観を組み立て直す。それが、社員と顧客のため、また経営後継者のために、現在の経営者がすべきことだ。

「企業成長神話は終わった」。100年続く市場縮小環境を生き残り、自社の企業DNAは必ず残す。企業DNAとは、自社の「企業理念」「企業文化」であり「固有技術」である。社会の強い求めがあって、自社にはできて、他社にはできないものだ。「企業成熟神話を創造しよう!!